万博は「世界が集う場」と言っても、実際には主催国の外交に大きく左右されます。国交がなければ出展することも難しいですからね。たとえば、70年万博では、パビリオンを出していた「中国」は「中華民国」であり「香港政庁」で、「中華人民共和国」は当時国交がなかったので出展していませんでした。しかし今回の「中国」は「中華人民共和国」です。では台湾は…?

台湾と日本は1972年の「日中国交正常化」で「断交」したのですが、実際には多くのビジネス客や観光客が行き来している不思議な関係です。すぐ隣で、ハイテク産業などのつながりも大きな関係があります。双方が「そのほうがメリットがある」と判断しているからです。しかしタテマエ上は、正式な国交はない。

そこで今回の万博では、玉山デジタルテック株式会社という企業が出している「テックワールド」というパビリオンが、実質的な台湾館の役目をしています。同社の従業員数は…わずか10名(日本法人)。不思議ですね。同館は場所も企業館が並ぶ一角にあります。外資企業がパビリオンを出すのは珍しいことではなく、70年にも日本IBMやコダック、ペプシなどが出展していました。2010年の上海万博では「日本産業館」という日本企業だけの集合展示館がありました。

館内に入ると「その南の島では…」とアナウンスも思わせぶりです。そして内容は、圧倒的な「半導体技術誇示」でした。民間企業の体をとっているので、振り切っています。数え切れないタブレットが一斉に首を振って動く制御技術は、素人が見ると圧倒されてしまいます。

そしてTech Worldというパビリオン名も、略するとTW…それって台湾だよねという符号になっていることに、鈍感な私はそこではじめて気がつきました。なるほど!国の外交原則を曲げないで、堂々と実質的な民間展示を展開しているわけです。

そういえば2010年の上海万博でさえ、台湾は中国政府館の隣に大きなパビリオンを出して、横には地方政府館があり、中国の一部のようにも見えるし、立派な外国館にも見えるし…という絶妙なレトリックで参加していました。そしてこの展示内容の技術性の高さを見ると、面積では小さな台湾が、大陸の中国政府にとって非常に重要な位置を占めていることに納得してしまいます。資源やメンツだけではなく、「技術」「経済」という実利があるのでしょう。したたかです。外交はしたたかでなくては。そんな勉強にもなりました。

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