「標準世帯」とニュータウン

「ニュータウンの人口が減って…」という現象はいまや全国の多くのニュータウンで共通に起きている課題ですが、このときに見落としてはいけない大きな社会の変化があります。
それは「世帯」の構成人数が、ニュータウンに限らず、また都市部にも限らず、日本ではどこでもどんどん減っているということです。ついに2007年、日本の世帯で一番多い世帯形態は、「単独世帯」…つまり「ひとり暮らし」になりました。長い間「標準世帯」と呼ばれた「夫婦+子」からなる世帯の数を、単独世帯が追い抜いたのです。これは日本全国ならしてもそうなので、都市部に限って言うと、その傾向はさらに進行しています。
昔の大家族から核家族へ…さらに核家族さえ分解してきて、人口は減るけれども世帯数は増える、多世帯社会に私たちはすでに突入しているのです。
しかし多くのニュータウンでは…千里でもそうですが、戸建でも団地でも、築40年でもいま建設中の物件でも…住宅の大多数が、依然として「夫婦+子」からなる「標準世帯」を前提に供給されています。
これでは、時代に合わなくなるのは当然ではないか?
実際には、40-50㎡台の初期建設の団地では、子供が出て行って、夫婦だけや単独世帯になっている家庭がたくさんありますし、入居の条件も緩和されています。一戸建てでも高齢化にともなって、同じ傾向が進行しているという実感があります。
単独世帯の増加は、さらに進行すると国立社会保障・人口問題研究所によっても推計されています。
これが止まらない全国的な傾向であるとするならば、もっと積極的に、単独世帯が暮らしやすいまちづくりをしなければ、「標準世帯しか住めませんよ」などと言っていては「時代に合わない」町になってしまうのではないでしょうか?単独世帯を増やすということは、学生を呼び込んで若さのある町にすることや、親から独立した子供が手頃な物件がなくてニュータウンの外へ出て行かざるを得ない現象への対策にもつながります。もちろん高齢になって「つれあいを亡くした」人にとっても、町を離れなくてすむ町でありたい。それが一人前の「町」でしょう。
郊外の「良好な」とされる住宅街では、単独世帯向けのアパートなどを住民が嫌がる傾向があるようですが、そういうことを言っていると、いつか自分自身が暮らしにくい町になってしまうのではないでしょうか?
特にニュータウンは、多様な世帯を受け入れる発想が設計に乏しい…「所帯持ちでないと住みにくい」という「視野の狭さ」があるのではないでしょうか?
これは住宅だけでなく、店舗やサービスを考えるときも大切な視点であろうと思います。(もちろん単身者が増えれば、ただプライベート化するだけではなく、逆に単身者が連帯する仕組みやしかけも求められるでしょう。)45年前の「標準」は、いつまでも「標準」ではないのです。

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