いつもより早く家を出てバスを待っていると、近所の団地のおじさんが「おはよーございまーす」とゆっくり自転車をこぎながら通り過ぎていった。たぶん70代なかばぐらいだろう、背が高くて、大きくて、ちょっとノッポさんに似ている。公民館の委員を前にご一緒して知り合いになったけれど、ゴーヤーで緑のカーテンを作るのがすごく上手い。別の団地を建て替えているので回り道して小学校の門の前を通ると、いつもいて子供たちを見守っている。登校時間には自転車で通学路を巡回しているらしい。
おじさんは昔、自分の息子さんが小学生の頃に病気で亡くされた。妹が息子さんと同級生だったので、その事実を知った。自分の子供を亡くして、町の子供の元気な姿を見るのはつらかっただろう。町の子供はみんな自分の子供だと思うようになったのか、途中のことは知らない。
町はいろんな人の思いを乗せながら、回っている。朝が来て、夜になって、歳月を重ねて、なくなった家族や遠くへ行った友達の思い出もいつのまにか一緒に溶け込んで、流れていく。盤石に見えた鉄筋の団地も古くなって、順番に建替が進んでいる。
今年も1月17日の寒い朝が来た。おじさんはきょうもゆっくりと、子供たちを見守りながら自転車をこいでいく。
この投稿は2014年1月18日にfacebookに投稿した文章に加筆したものです。
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