「20年目ですね」と先生に言われて、気がついた。2001年7月、阪大病院で頭の大きな手術を受けた。11時間半。耳鼻科と脳神経外科と形成外科の3科合同手術。本人は寝ているだけだったが(僕は予備麻酔で眠りに落ちてしまった)、家族には心配をかけた。同じ頃、母も持病の心臓で国循に入院していた。どちらも自宅から歩ける距離だったのは稀有な有難さというほかないが、父と妹は2つの病院を行ったり来たりしていた。20年前は、母と父がいた。
「予後もいいので、もう経過観察も終わりにしていいでしょう」と形成外科の女の先生は言った。大きな手術だっただけに予後のチェックが3科交互に続いていたが、やがて耳鼻科と脳神経外科が順に放免になり、形成外科だけが年1回になって続いていた。今の先生は3人目。手術をしてくれた先生は遠くの病院に転任され、2人目のナイスミドルな先生は毎年髪が薄くなっていって、ある年いきなり毛量が増え、吹き出しそうになるのをこらえながら診察を受けたのはfacebookにも書いた。その先生もいなくなって、今の女の先生になっていた。
診察が終わって240円を払い、病棟の14階にあるスカイレストランに行った。ここはロイヤルホテルがやっていて、パジャマで来ることはできない。こんなご時世でやっているかと思ったが、通常営業していた。なにより、万博公園を足元に、大阪市内が一望できる!夏は霞みがちになるが、きょうはステンレスの手すり越しに空中庭園、ハルカス、南港までは視認できた。入院していた時は、退院してここで食事がしたかった。3週間の入院だったから、レストランの隣の会議室で「不在者投票」をしたこともあった。もうダイアリーを買うたびに、来年の診察予約を書き込むこともない。
スカイランチもあったけれど、やはりこういう時はカレーだろう。運ばれてくると、さすがにロイヤルのカレーはシンプルに見えて味が深い。別添になっているルーをソースポットから白い皿にあけている時に思い出した。…今晩もカレーだった。頭が「カレー」で占領されていたのはそのせいだった。いや、加齢だったのかもしれない。
12時から食べ始めて、12時50分には徒歩で帰ってきて家にいた。20年後の日常のつづきに、戻ってきた。
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