ニュータウンと介護

私事になりますが、きょう10/25は、母の4回目の命日なのです。昨秋に父も見送ってから最初の命日、どこへも行かず静かに過ごしました。
つい先日、女優の南田洋子さんが亡くなり、前から気になっていた夫・長門裕之さんの介護エッセイ「待ってくれ、洋子」を読みました。南田洋子さんといえば僕らの世代には「ミュージックフェア」の16年も続いた落ち着いた司会の印象が強く、ニコニコしながらスパッと核心に斬り込みそうなところは、なんとなく母を思わせるところがありました。数年間の自宅介護ののち亡くなったのが76歳だったと読んで、母と同じだなと思いました。長門さんの数年間の介護の「告白」は、一緒にいる時間のかけがえのなさと、手を尽くしても病状が進んでしまうことのつらさ、介護以前と介護が始まってからのさまざまな悔恨…そういった気持ちが混ざって家族に押し寄せるあたり、介護を経験した多くの人に共通の心情ではないでしょうか。
千里ニュータウン、藤白台の市民体育祭は大盛況だったけれど、急速に高齢化が進んでいることはやっぱり否定できません。親世帯の定住性が高く、子世帯が独立して出て行くケースが多いニュータウンでは、高齢化はある地点から急激に進行します。70歳ぐらいだったら今や「カクシャク」という形容を使うのも失礼なぐらいお元気な方が多いですが、これから千里ニュータウンでは後期高齢化率が急速に上昇するでしょう。
どれほどの人たちが介護に向き合っておられるのでしょうか?介護が必要になった人やその家族は、町に出ることが難しくなります。普通に町を歩いていた人が、あるときからふっと姿を見せなくなる。それはいなくなったのではなく、ベッドで一日過ごしていたり、施設や病院とのあいだを往復していたり…周囲からはなかなかうかがい知ることができません。「人前に出てこなくなっても、いる」のが重要なところで、外に出てくる人たちだけで町は判断できません。
ニュータウンの近隣関係は昔の地縁社会のように「ご近所のことはお互いなんでも知っている」関係ではなく、ドライでもないけれど踏み込みすぎもしないビミョーな距離感を保っているので、そこの加減が自治会などでも悩むところです。「核家族の老後」に、私たちははじめて向き合っているのです。
「老・病・苦」そのものを避けることはできませんが、町に出て来られない人の存在を見落とさない、ニュータウンがそんな町であってほしいと思います。

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コメント

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  • コメント (5)

    • 団塊の婆
    • 2009年 10月 26日

    「普通に町を歩いていた人が、あるときからふっと姿を見せなくなる。」それでもニュータウンの人びとの中には他人の手助けを拒む人が少なからずいるのではないかと危惧しています。「プライド」がそうさせているのではないかと思っています。
    「プライド」はとても大事ですが邪魔なときが多いですね。
    老後の生き方、死に方はとても難しい…

    • 奥居武
    • 2009年 10月 26日

    以前ニュータウンのお医者さんに話を伺ったとき「孤独死はそんなにいけないことですか?」と反問されて言葉に詰まったことがあります。それはすごい迫力のある問いでした。ある種の「過剰介護」は社会コストとなって若い層を圧迫しているのではないか?そんなことは続かない…といったような観点であったかと思います。かといって他人に迷惑はかけたくないし、本当に「モデルがない」時代を私たちは生きているのでしょうね。核家族で出す葬式はこれがまた慌しくて悲しみにくれるひまもなく、ふだん仕事でも起こさない「ケータイの電池切れ」を起こすありさまでした。

    • みっちゃん
    • 2009年 10月 26日

    現在、吹田市内に特養は17、老健5、グループホーム20ほど、有料ホームは賃貸、分譲など色々な形態で何百室も増加中。それだけ需要があるのでしょう。自宅で一人で住むのは、家族が許さないのです。施設に入ってくれれば家族が安心。近くに住まない家族は親を施設に。
    施設での集団生活は、認知症を進行させ寂しさが募ります。地域で上手に見守ってもらい暮らせるのが一番幸せではないでしょうか。それには、それまでの付き合いが大切。近所にいい友人を作っておくこと。それも色々な年代でね。でも結局、歳を重ねると何が起こるか分からない。柔軟に自分の人生に流されましょうか。

    • 都会地方
    • 2009年 10月 26日

    南田さんが家を建て替えたのが4年前、その3年前ぐらいから計画されて荷物の整理をされていたのでしょうが、年を取ってからの急に居住環境を変えるのは本人も気づかないストレスがたまるのではないでしょうか。

    • 奥居武
    • 2009年 10月 27日

    「介護」と「生活」を両立させるためには、安心して託せる施設もあってほしい…でもそれがなかなか見つからないというか、わからないのが実情だと思います。生活をコンパクトに変える選択も、考えた末のことであったでしょう。何が正解かって本当に難しいことだと思いますが、少なくとも「介護」と「育児」が同じぐらいオープンに語れるようになるといいなあと思います。人口比で言ったらとっくにそれが妥当であるぐらいになっているでしょう。大変だけど不幸なことじゃないっていうふうに思いたい。自分の行く末の話でもあるんですから。老後に希望が持てなかったら、結局若者も社会を信頼できないと思うんですよね。これは皆の話です。

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