千里ニュータウンの戸建て住宅街は、おおむね100坪を1区画として分譲されています。
…などと書くと、今の感覚では「ええっ、デカイ!」と言われることがよくありますが、40数年前には千里は「どこそれ?…わざわざそんなところに家を買わなくても…」と言われるような不便な山奥でしたから(本当に新聞に「陸の孤島」と書かれたことがある)、土地は今よりはるかに安かったのです。バブルも列島改造もなかった頃、日本全体が土地は安かったし、千里は無名の新人だった…そこで比較的ゆったりとしたまちづくりがされ、本当にフツーのサラリーマンが…ムチャなローンを組むでもなく…やや頑張って家を買ったのでした。
ところが千里の交通や住環境がととのい、大阪万博で有名になり、列島改造が追い打ちをかけ…千里ニュータウンの地価は、最初の10年でとんでもなく上がってしまいました。1979年の千里のテレビ番組には早くも「40倍にも上がった」とナレーションで語られています。
その後バブルの頃には上物付き1区画3億円…といった時代を経て、今は1区画100坪1億円前後…というのが大雑把な相場のようです。(今の自分には、とても買えません。)
そこでこの5年ぐらい急速に目立ってきたのが「高すぎて相続できない」という現象です。ニュータウンの第一世代も高齢化し、相続が発生した場合、不動産以外の金融資産を別に持っていないと、相続税が払えない。そこで売るケースが続出するわけですが、1億円…上物が付けばもっと…では買手も簡単につかないため、敷地分割して2戸にして売るケースが激増しています。それでやっと5000万とか6000万とか…。若い人はなかなか買えないですね。買うのは40-50代ぐらいの方が多いようです。空き地でボーボーのままよりは、僕と近い世代の人が入ってきたほうが、それはウレシイのですが…。
100坪を割って50坪。165㎡。長年100坪単位の街並みを見慣れてきた千里ニュータウン住民は、町並みのゆとりが消えてしまうと敷地分割をなんとか避けたい人も多いのですが、現実の前には…ということです。分割された敷地は、最近の傾向として1戸につき2台分のカーポートを取るため、元の家に比べると駐車スペースが4倍になり、法面を大きくカットしているケースが多く見られます。
吹田市では200㎡、豊中市では230㎡を最小単位とする(つまり大きめの区画でないと分割できない)ガイドラインをニュータウン地域に設定していますが、絶対的な強制力はないようです。中には自治会単位などで「分割禁止」の協定を結んでいる町もありますが…僕だって40年続いてきたゆとりのある町並みは変わってほしくないですが、これからも絶対分割しない自信はないなあ。
親の時代に買えた土地が、子供の時代には維持できない。それが今の千里です。たとえ区画を分割しても…広さだけを尺度にするのではなく「千里らしい町並み」を引き継いでいけるアイデアが求められているんでしょうね。
土地が高くなることは、ずっと住み続けたい人間にはいいことばかりではありません。「高級住宅街」というチラシの宣伝文句を見るたび、「やめてくれ~」と言いたくなります。

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