博報堂を退職しました。

5月1日に日付が変わって、1983年4月1日以来、35年と1ヵ月所属してきた博報堂から退職いたしました!60まであと1年1ヵ月あるけど少しだけ早い退職です。この間お世話になりました皆様、ありがとうございました。これからは「ニュータウンにかかわること」(研究とか執筆とか発信とか活動とか)に、より多くの時間を使っていく予定です。…とはいえ確固たる定収の支えはありませんので、何か「あがく」かもしれません。

僕が広告会社を選んだ理由はすごく単純で、国語しか得意なものがなくて国文科に進み、国文科といえば就職は学校の先生かマスコミ方面が多く、「言葉を使って社会に何か影響を及ぼす」ことがやってみたかったんですが、学校の先生は「正しいとされていることを限られた人数に教える」仕事なのに対し、「正しいかどうかわからないことを不特定多数に広める」ほうが面白いのかも…?と考えたからです。だって、世の中って、わからないですから。「正解がないこと」に魅力を感じるのが、どうも僕の癖のようです。

じゃあ広告とニュータウンにどういう共通性があるのか?ですが、それは「マスを相手にしていること」です。ニュータウンは、特定の人たちだけを相手にしているセレクティブな高級住宅街ではなく、福祉的な役割だけでもなく、大勢の人たちに住の「質」と「量」を同時に与えようとしたマス・ハウジングの仕組みです。「ソーシャル・ミックス」って言うんですが、今風に言うと「ソーシャル・インクルージョン」的な考え方で造られている。僕はそういう町で育って、いくら中身が良くても、それが少数の人たちだけを相手にしている「特別な限定モノ」には萌えないというか、そこから社会全体が変わっていくような、「規模感」がないと面白くないんですね。(ちなみに父はプレハブハウスのメーカーにいて、プレハブって、日本の住宅景観をダメにしたとか言われるけれど、全体の住宅の質を上げるには大きく貢献したと思うのです…)
就職のときに「特定少数」ではなく「不特定多数」相手のマス・コミュニケーションの仕事に舵を切ってしまったことも、自分がニュータウン育ちであったことは大いに関係していたような気がします。

そう考えると、僕は「鉄」なんですが、これもまたマス・トランスポーテーションの仕組みで、この3つは、似てますね…。もちろん今や時代は細分化して、マーケットもそんなに単純じゃないことは承知のうえです。でもやっぱり僕は、そういうところに目が行くんですね。

今や「ニュータウンオタク」を名乗っている私ですが、これにはっきり目覚めたのは2005年から。とある社内ゼミの勉強会から、ニュータウンが人口減少社会の水先案内になるんじゃないかと思いついて、特に僕が育った千里は「日本最初の大規模ニュータウン」ですから、次世代のヒントがいっぱい詰まっているのではないか、そこに半世紀かかわってる自分はこれをやるべきではないか?と、自分のミッションを自覚したのでした。1995年には阪神大震災も経験していて、広告屋はカッコつけて世界を変えるようなことを言うけれど、自分の目の前のことからやらないと全然説得力ないな…と、ある種限界を思い知ったことも割り切りになりました。

そこからこっちは会社の仕事もしながら地元+ニュータウンのことにのめりこんでしまって、しかも「ニュータウンのこと」は1種類ではなく町内の自治会から千里全体のことから全国のニュータウン160ヵ所以上に行くとか主要ニュータウンのネットワーク作りとかレイヤーがいっぱい枝分かれしてしまって、その全体量をわかってるのは自分しかいなくて誰も調整してくれず、週末がぎゅうぎゅうで月曜の朝になるとホッとして会社に行く…という倒錯現象まで感じるようになり(会社の仕事もちゃんとやってましたよ~)、これは早く「自分のテーマ」に集中しないと…と、チャンスをうかがいながらなかなか踏ん切りがつかず、「あ~もうヤメヤメ!」と思っていると面白いミッションが降ってきたりして、今日に至る…というわけです。本来はいろいろカケモチできるほど体力も才覚もないのに双子座のサガというか実は気が多くていろいろ首を突っ込んでしまって、至らなかった点はひらにお詫び申しあげます。そしてこのような「ブレブレの社会人生活」を組織の力として面白がって許容してくれた自由な博報堂の文化には、心から感謝しています。創業から120年以上たってて、こんなにアグレッシブな会社って、なかなかないでしょう!みんな、早死にしないでね!僕も長生きしたいです!

よく「卒業」って言いますけれど、それは会社から見た時の話で、自分から見たら「一学期終了」ぐらいじゃないかと思います。夏休みの宿題が、いっぱいあります!もう「出る出る詐欺」とか「幻の名著」とか言われてる本を書くことですね、まず!しかし部屋もごちゃごちゃだしPCは重くなって動かないし庭もきれいにしないと不用心だし地域活動のA、B、C、D!お役目ちゃんとしないとあきません。個人発信のもとになってるブログも立て直したいし…

あちこち(北海道から石垣島まで+海外)のニュータウンに行くのは僕の生命線ですから、これを飛び回れるぐらいの資金も確保しておかなくてはなりませんね。ああ、やっぱり欲張りだな僕…。しかし物事、ガマンするよりはイッちゃったほうが上手くいくものだ!って、いつからこんなイケイケになったんだろう僕…。内気でおとなしくて人見知りする性格だったのに…。ともあれこれも35年1ヵ月の人格改造の成果かもしれません。いやこれもニュータウンのせいか?

(写真は博報堂名物ハニーレモンクラッシュ…という内輪ウケ。会社訪問に行ったとき先輩におごっていただいたというノスタルジーを込めて)

この投稿は2018年5月1日にfacebookに投稿した文章に加筆したものです。

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