「計画運休」ということを首都圏のほうでもやるようになって、「なんでそんな早く電車を止めるんだ?」という声も見かけるので、説明します。

これは2014年から、まずJR西日本でやるようになった台風や大雨前の施策です。鉄道会社はこれまで「電車は動かせるところまで動かす」ということが基本動作でした。なぜなら鉄道は社会的使命を背負っているからです。ところがたとえば平日の午後に台風が来るような場合、ギリギリまで電車を動かすと朝の通勤時に大勢の人が都心に出てしまい、帰りは運休になって大量の帰宅困難者を出す…といったことも起きてしまいます。「不要な外出は避けろ」と言っても、電車が動いていれば会社に来てしまうのは、勤め人としては無理からぬところでしょう。帰宅困難者が駅に溜まると鉄道会社としても困るし(保護しないわけにいかないが限界がある)、電車が動くことがかえって社会的混乱を増すのでは?…という観点で発想を切り替えたのが「計画運休」です。

これは天気予報にしたがって早めに「○○時から運休します!」という予告を(時として前日から)出してしまい、外出をそもそも抑制してしまう…という施策で、2014年の台風19号前にJR西日本が試験的にやって、混乱が減らせて反発も少なかった、災害後の立ち上がりも速くできることから定着し、関西の私鉄もしだいに倣うようになりました。それが首都圏にも広がっているようです。鉄道会社としては雨風がひどくなる前に運休解除後の車両の配置を考えて動かしておくこともできます。また自社従業員を災害時に動員するリスクも減らせます。

これは気象予測の精度が上がったことと、ネットの発達で利用者が駅に来なくても運休情報を知りやすくなったという「情報環境の進化」が大きく寄与しています。

JR西日本は2005年の福知山線脱線事故以来「守りの広報」に徹しなくてはならない時期が続いていましたが、「安全とは何か」を多角的に考えて、このような「計画運休」を導入したり、酔客のホームからの転落事故を防ぐためにベンチの向きを90度変えるだけで大きな効果を上げていたり、「発想の転換」で自社だけでなく、社会全体も先導する動きが出てきました。

台風そのものを小さくすることはできませんが、こういうことが「社会の進化」なのだと思います。

この投稿は2018年9月30日にfacebookに投稿した文章に加筆したものです。

(画像はwikipediaからパブリックドメインを利用しています。)

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