ニュータウン映画としての「ひまわり」

ウクライナで今進行している悲劇には、心を引き摺り込まれるようです。一度も行ったこともない国なのに…しかしその報道映像は、現代的な日常生活が飛来した爆弾で破壊され、家族が引き裂かれ、国境に押し寄せる避難民…と、あまりにも露骨な「戦争」の姿をしていて、それがテロでもなく内戦でもなく、国が国に侵攻するという、歴史の中でしか知らなかった事態を伝えています。

ウクライナや旧ソビエト圏を直接知ることはなくても、メディアによって間接的に、私たちはその一面を見ています。その中で日本でも多くの人の心に刻まれている名作が「ひまわり」(1970)です。(以下ネタバレあり)

この映画では、多くの「対比の構図」が使われています。北イタリアの男と、南イタリアの女。終戦前と終戦後。イタリアとソビエト。前半の歓喜と後半の悲劇。生命力にあふれたカラフルなひまわりの野と死体が転がるモノクロームの雪原。静と動を体現したような2人の女性。晴れた昼と雨の夜。駅で列車が出ていく別れのシーンは2回ありますが、ソビエトに夫を訪ねて行った妻を乗せた列車は右へ走り去り、イタリアに(元)妻を訪ねて帰ってきた(元)夫を乗せた列車は左へ走り去ります。

その中で、モスクワと思われる新しい団地が出てくるのも、ニュータウンマニアの私には見逃せません。時代設定は1960年頃でしょうか。皆が一斉に引っ越してくるシーンは、千里ニュータウンの記録映画と「驚くほどそっくり」です。妻がソビエトまで訪ねてきた記憶を振り払うように、夫は新しい家族と引越を決意します。その先が真新しい団地なのです。夫の側も妻の側も、前半は古い低層の家に住んでいて、後半ではモダンな集合住宅に移っています。つまりこの映画では、団地は「戦後の新しい生活」を象徴しています。それを前半と対比させることで、時の流れも表現しています。1942年頃から1960年頃まで、およそ20年の歳月を住宅の変化でも表現しています。

団地の窓の外にはロシア正教会の教会も見えます。古風なタマネギ屋根をつけていますが、団地専用の新築ではないでしょうか。(終盤、ミラノのシーンでもモダンなコンクリート造りの教会が団地の向かいに見えます。)

この映画はソビエトと西側諸国の初の合作として製作されていますから、そのロケ地選びには、ソビエトが「見せたかった要素」が散りばめられているはずです。妻が夫の新生活に衝撃を受けて列車に飛び乗ってしまう小さな駅の反対側には、原子力発電所の冷却炉のような建屋が建設中なのも見えます。駅のすぐ裏手という感じです。これは明らかにストーリーに対して必然性がないので、「見せたかった要素」なのでしょう。ソビエトはこんなに発展していますよと。この映画が公開された1970年当時、たしかにソビエトには先進的なイメージがありました。宇宙開発でも、万博でも、アメリカと覇を競っていました。今のロシアには、知性を取り戻してほしいです。

2020年に「製作50周年記念」として修復されたバージョンが、今回の事態を受けて劇場で再公開されるようです(→こちら)。団地マニア以外の方にも、ぜひ。

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