ニュータウン・ブックチャレンジ(7/7)…羊をめぐる冒険

「ニュータウン・ブックチャレンジ」最終目は『羊をめぐる冒険』(1985年 講談社文庫、村上春樹著)。原著は1982年。ずっと前に一度ご紹介したことがありますが、村上春樹のニュータウン観が伺える記述があり、締めに持ってきました。舞台は1970~1978年、芦屋。

この時期、芦屋では、白砂青松の芦屋浜を埋め立てて、「海のニュータウン」芦屋浜シーサイドタウンを造成する工事が行われていました。この計画は兵庫県の主導による意欲的なプロジェクトで、凡百の埋立計画とは一線を画した「海上都市」。まず阪神間という好立地にありながら埋立地に一切工場を入れず、全部住宅地にしてしまうというあたりから「芦屋ブランド」を考慮されたニュータウンではなかったのかと思いますが、芦屋民の評判は決して良いものではありませんでした。すでに泳げる水質ではなかったとはいえ、浜をつぶして、既存の市街地とまったく連続していない空間を造ってしまったからです。ニュータウンが古いコミュニティと連続していないのは、どこでも当時は「そういうものだった」のですが…。

村上春樹の記述にも、その反感は滲んでいて、辛辣です。

「山を崩して家を建て、その土を海まで運んで埋めたて、そこにまた家を建てたんだ。そういうのを立派なことだと考えている連中がまだいるんだ」

「しかし僕にいったい何を言うことができるだろう?ここでは既に新しいルールの新しいゲームが始まっているのだ。誰にもそれを止めることなんてできない。」

芦屋浜シーサイドタウンのオープンは1979年でしたが、70~80年代はまだ、全国的にニュータウンはばんばん造られていました。しかし村上春樹は早くも1982年には、それを「故郷の喪失」ととらえていたのです。主人公は東京から故郷の芦屋に帰ってきて、実家に泊まらずホテルを取って、変わってしまった海の光景に失望して、霧雨の中拾ったタクシーの運転手と、こんな会話を交わします。

「旅行ですか?」と初老の運転手が言った。
「うん」
「こちらは初めて?」
「二度め」と僕は言った。

この芦屋浜の計画は、間違いなく非常に先進的なものでしたが、さらに沖に埋め立てられ、震災を挟んで1990年代後半からオープンした「南芦屋浜」(潮芦屋)地区では、未来都市過ぎた前計画を反省したのか、また路線を切り替えて砂浜の復元などをやっています。この結果、元からの陸地~芦屋浜シーサイドタウン~潮芦屋と、芦屋はまったく景観が異なった三層の地区を不連続に重ねることとなりました。

ニュータウンのようにシステムの衣をまとった「高くて硬い壁」のような存在と、村上春樹のスタンスは、そもそも合わないんでしょうね。しかしニュータウンを故郷とする民としても「壁にぶつかって割れてしまう卵」の心は忘れたくないものだと思います。

「ニュータウン・ブックチャレンジ」は、これで終わりです。とくに誰かに引き継ぐこともしません。普遍性を感じていただくために、千里や「団地再生」に特化した本は選びませんでしたが、そういった縛りでも、リストを整理しておきたいと思っています。

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  1. 2020年 9月 02日

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