ニュータウン・ブックチャレンジ…やとのいえ

SNSで流行った「ブックカバー・チャレンジ」のニュータウン版、5月16日付から5月22日付まで7回お届けしましたが、紹介したい本が出てきたので続きやりまーす。『やとのいえ』(2020年 偕成社、八尾慶次著)。新刊です。大人も子供も楽しめる絵本です。舞台は、多摩ニュータウン。「やと」は「谷戸」で、小さな谷あいを示す、関東に多い呼び方です。

1軒の家とそれを見守る十六羅漢を主役に、明治初期から現代まで、同じ地点の暮らしの変化を定点観測的に15シーンの細密な絵で追いかけていきます。

季節や時代背景もおりこまれ大変抒情的ですが、読みごたえがあるのは本の後半、絵の中のモチーフの変化に詳細な「注」がつけられ、本編と同じぐらい「注」のページがあります。これって、田中康夫の『なんとなく、クリスタル。』以来40年ぶり…?

そして胸を打たれるのは、150年のうち、直近50年の変化の激しさです。ニュータウンがやってきたからです。周囲ののどかな里山は団地に変えられ、モノレールまで走るようになります。主役の家も潰されてしまいますが(ええ~?主役が死亡って、そんなの、アリ?)、幸いにも二代目の家が建て直され、十六羅漢さまも生き延びます。

このような容赦ない変化は、日本中のニュータウン開発に共通の物語だったでしょう。もちろん、千里も。半世紀を経過して「その前の暮らし」を語れる人も減りつつある今、「絵本」という方法で、それぞれの時代の情景がいきいきとよみがえっています。描いている事実は重いのですが、心が洗われるような一冊です。

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