シンガポールの「団地」の総本山(トアパヨ・HDB)

(2018年7月に訪問した時の記録です。)シンガポールの「団地」(ニュータウン)めぐりをトアパヨから始めたのは、この駅前には…日本でいうURのような…大組織、HDB住宅開発庁)の本部があると聞いていたからです。

なんといってもシンガポールでは、全国民の約8割が、HDBが供給する「団地」に住んでいる!日本のURも「日本最大の大家」と言われますが、全世帯数に対する供給戸数は(粗い計算で)わずか1.3%にすぎず、HDBの圧倒的なシェアには絶句してしまいますね。国中が「団地だらけ」になるわけです。その9割は分譲。外国人は、買うことはできないが、借りることはできる。ただし外国人にはかなりお高い。国民には融資制度がある。地区別に住民の民族の配分が決められている…。

…と書き出していくと、これは住宅を通した社会統治ですね。資本主義だけど社会主義国的です。しかしとにかく、資源もない都市国家が国民+外国人を惹きつけ続けるためには、「住宅」は基本である…というのは、まことに正しいように思われます。

…という裏のしくみはさておき、そのHDBの本部は地下鉄の駅から直結していて、足を踏み入れると広い吹き抜け空間にマイホームの夢が広がるジオラマや説明パネル、(たぶん)融資などの相談コーナーなどが広がっていて、団地マニア、ニュータウンオタクにはちょっと鼻血ブー!な魅惑の空間でした。「お役所」という感じではありません。むしろ民間不動産会社のショールームに近いオープンでフレンドリーなイメージです。その雰囲気は、かつて千里南センタービルにあった千里開発センターの空間に似ていたかもしれません。そこにも町の完成予想ジオラマがありました。(はい、私は町のジオラマを見ると目がバラ色になってしまいます…)

そして週末でもないのに大勢の人が出入りしていて、「住宅への熱気」がひしひしと伝わってきます。ここに集中させているからと言えば、それまでですが。

シンガポールという国は人口560万人のうち約3割が外国籍で、貧富の差も激しいとのことですが、国民の8割の住宅をこのHDBが賄っているとすれば、(その中で新旧の差やグレードの差があったにしても)分厚い中間層はこのHDBが支えているということになるのではないでしょうか。

ちなみにHDBでは古くなった団地の更新(建替を含む)も進めているので、分譲と言っても売ってしまえばあとは自己責任で…という仕組みとはずいぶん違うように思われます。それは私権が制限されているとも言えますが、日本では集合分譲住宅の建替が「必ずもめる」ことを考えると、(賃貸でももめますが…)「分譲」「賃貸」という言葉が持っている責任範囲の定義がそもそも違うのだと考えざるを得ません。

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