千里ニュータウンを考える本「団地図解」

最近facebookのほうばかり書くようになってしまいましたが、記録性にかんがみてこれはブログにしておきたいと思います。関西団地愛好家界の指導的立場というか、ちょっと年長の吉永健一さんが(と言っても僕より若いけど…)、すごい力作の本を共著で書かれました。「団地図解」(学芸出版社)。名前は「団地図解」で、全国の団地について書かれてますが、半分以上はわが千里ニュータウンについての考察です!
千里青山台団地(UR)、千里津雲台団地(UR)、新千里東町団地(UR)、千里高野台住宅(府営)。なかでも千里青山台団地については原地形の処理から丁寧に説き起こされ、かなりの称賛を持って描かれています。青山台と言えば、わが藤白台とは中学校区が一緒で、青山台中学校。僕も大勢の同級生がこの団地に住んでいました。ポイントハウスの5階に住んでた同級生の家に遊びに行ったことも何度もあって、北千里駅になだれ込むように落ちていく斜面に点在する団地群の眺めは、昔も今も「うっとり」するような魅力を放ち続けています。
京都であった出版記念イベントにも行ってきました。お客さんもそうそうたるメンバーで、千里関係者も多数…。半世紀以上前に造られた千里の団地について、特に若い人たちが、こんなに愛着と敬意を持って集まってくださるというのは、すごいことです。やっぱし千里ニュータウン、カッケー!
とはいうものの。この楽しいイベントを聴きながら、やはり自分はニュータウン住民として、だんだん複雑な気分になってきたのでした。というのは、この青山台(その人口の半分以上はこの団地が占めていると思いますが)、ニュータウンに12ある住区の中でも、かなり激しく人口が減ってしまっているのです。青山台小学校のホームページによれば、全校児童は206名。3年生以外は1クラスで、1年生は29名。これに対して藤白台小学校は、全校児童は608名で、1年生は110名です。この2つの学校から上がることになっている青山台中学校では、僕の頃(って1970年代!)は両校の人数がほぼイーブンだったのに、今では3~4倍の開きができてしまいました。
なぜか?藤白台は団地の建替が進んでいて、青山台は建替が進んでいないからです。藤白台小学校区には今は隣接の「上山田」のマンション群が入っていることも差を広げている要因ですが、その影響を別にしても倍ぐらいの差はついているでしょう。
青山台の人口に占めるUR団地の比重はかなり大きいので、URが建替をしていないことが、大きな差をつけてしまっていることになります。藤白台にはURはなく、府営と公社が「全棟建替」の方針で進めていることが、藤白台の人口を押し上げています。(藤白台小学校の児童数も、最多時に比べれば半分以下に減っているのですが。)
この10年で藤白台の景色は建替で大きく変わりましたが、藤白台はニュータウンの原風景を失った代わりに人口を獲得し、青山台はニュータウンの原風景を維持している代わりに人口を失っていることになります。この影響は学校だけでなく、近隣センターの商売や、自治会活動などあらゆる面で出ています。同じ中学校区で隣接する2つの町。どちらのあり方が「望ましい姿」なのでしょうか…?
建て替えて戸数を増やさないと人口が保てないのは、1戸あたりに住んでいる人数が大きく減っているからで、これはニュータウンだけではない全国での変化。いわば時代の流れです。
URは青山台の団地を(少なくとも今は)建て替えないことに決めてから、相当鳴り物入りのキャンペーンを行って、無印良品とタイアップして住戸単位の改修を進めたり、なんと東京の、あの国立競技場のコンペで最後まで競った、第一人者の建築家と言っていい伊東豊雄さんを起用してワークショップやったり、モデル的な扱いで「活性化」に取り組んでいます。実際に屋外空間も努力の跡が見られます。そこまでやっても、リノベーションは建替のような短期の人口増効果をなかなか生まない。
元の設計も素晴らしく、直近の活性化策も鳴り物入りで、それでも人口がなかなか増えない。この現実と、この本の中での高い評価がどうしても頭の中でぐるぐる回ってしまい、藤白台住民だけど青山台中学校卒業生の私は息が苦しくなってしまいました。
団地愛好家の皆さんは、当時(1960年代~70年代)の日本住宅公団の成果や、その設計環境まで、あこがれを持って見ているようですが、この現実に対してはどう考えられるのだろう…?その時代の設計者は必死で時代のニーズと向き合っていたはずですが、今の時代のニーズに向き合うには?「人口は減っても、いい町」をめざしていけばいいのか?人口が減ればお店もお医者さんもあらゆることの運営が苦しくなっていくのですが…。
ああ、やっぱり自分は「住民」の立場から離れられなくて、なまじ時代の変化など勉強してしまったために、なんだか余計なことを考えてしまう。いや、きっとこの本はそういったことも超えた「豊かな住空間の創出」について語ろうとしているのです。親しみやすいブックデザインと裏腹に、はてしなく重いものを見てしまうかもわかりませんが、だからこそ千里やニュータウンに思いのある人にはお勧めしたい本書です。

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