「海を失った防波堤」by村上春樹(芦屋浜シーサイドタウン)

ニュータウンと既成の町の境界には、はっきりしたギャップが生成されることが多くありますが、埋立地のニュータウンでは、それは「旧海岸線」ということになります。
こちらが、昔ながらの「芦屋」(左)と、埋立地である「芦屋浜シーサイドタウン」(右)の境界。昔からの防波堤がそのまま残され、山側は遊歩道になり、海側には道路が設けられました。植栽も、左手は谷崎潤一郎が愛した「松」、右手はニュータウンによく採用される「フウ」と、はっきりした対照が見られます。
1960年代までこの写真の右手は砂浜と海で、1960年ごろ、汚染がひどくなるまでは海水浴場がありました。阪神電車の駅はどこを降りても海水浴場があり、夏は臨時電車が出て人がいっぱい来たと言います。「芦屋浜」はニュータウンではなく砂浜だったのです。
しかしその風景は失われました。村上春樹の「羊をめぐる冒険」には、この海岸線が失われたあとの空虚な感覚が、的確に描かれています(文庫本の上巻のまんなかあたり)。

「山を崩して家を建て、その土を海まで運んで埋めたて、そこにまた家を建てたんだ。そういうのを立派なことだと考えている連中がまだいるんだ」

「しかし僕にいったい何を言うことができるだろう?ここでは既に新しいルールの新しいゲームが始まっているのだ。誰にもそれを止めることなんてできない。」

村上春樹のニュータウン論として興味深い描写ですが、「羊をめぐる冒険」が書かれたのは1981-2年。「新しいゲーム」は、まだ続いているのでしょうか。

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