都市に呑み込まれる近郊外(イギリス・ハムステッド)

(2013年8月に訪問した時の記録です。)ウェリンからロンドンに戻ってきて、ここはロンドンの郊外というよりはロンドンの一部になってしまっているハムステッドという町です。郊外電車ではなく地下鉄で行きます。

この町には、田園都市の流れを汲みながらハワードの田園都市(Garden City)ではない…「ハムステッド田園郊外」 (Hampstead Garden Suburb) と呼ばれる一角があります。マスタープランを描いたのはバリー・パーカーとサー・レイモンド・アンウィンレッチワースハワードと組んだ同じ2人組です。1907年建設開始だから、1903年のレッチワースとほぼ同時期ですね。

ただしこの町はハワードの田園都市とは異なり、大都市ロンドンへの依存が前提とされ、産業エリアや農地は確保されず、住宅地は「分譲」でした。このために当初は「あらゆる階級、あらゆる所得層の人々に住まいが提供されること」が謳われたにもかかわらず、都心へのアクセスの良さもあいまって実際には「高級化」してしまいます。そういう意味では、日本の大正期の分譲地…田園調布などに近いのは、レッチワースではなく、むしろこの 「ハムステッド田園郊外」 かもしれません。広さは97ha…ということは、1,000ha以上あるレッチワースやウェリンに比べてもうんと小さいです。(千里の住区1つ分ぐらいはありますが…)

今ではすっかり大都市ロンドンの一部に呑み込まれ…東京で言えば麻布か松濤、大阪で言えば帝塚山のような感じでしょうか…セレブな雰囲気を醸し出しています。

田園都市を愛する人たちからは…この町があったために、土地を切り売りせず自己完結型の「共同体」としてやっていこうとするハワードの初心が曲がって、たんなる「いい分譲地」として各国に広がってしまったという…「あまり知られたくない見本」の地位に置かれることもあるようです。

実は情報不十分で歩き回り、地下鉄のハムステッド駅は 「ハムステッド田園郊外」から駅1つ~2つ分ずれていたため、正確な 「ハムステッド田園郊外」 のレポートにはならないのですが、近隣エリアの雰囲気として見ていただければ…。この写真は地下鉄ハムステッド駅の周辺。(つづく

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  1. 2021年 8月 30日

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