もうすぐ終わってしまう世界唯一のもの(スカイレール)

有名なのか無名なのか、今静かに話題になっているニュータウンの「あれ」。こちらは広島市郊外、その名も「スカイレールタウンみどり坂」の公共交通機関「スカイレール」。ロープウェイのように見えてロープウェイではなく、しっかりした軌道から車両が懸垂しているけれど懸垂式モノレールよりはるかに小さい。

実は見に行ったのは昨年の5月だったのですが、今年の4月30日正午発をもって運転を終了してしまいます。

1997年に入居が始まった小さなこのニュータウンは山あいにあり、谷底にJRの駅があって住宅地は丘の上にかけて急な勾配地に広がっています。その間を結ぶために新しく開発され、導入されたのが「スカイレール」。急勾配に強く、ロープではなく硬い軌道から懸垂しているため風にも強く、モノレールよりは小単位の輸送ができる。乗った車両は、まさに少しゆとりのあるロープウェイのような大きさです。駅改札や車両は無人で、簡易な自動改札があり、切符を買って乗ります。途中駅が1ヵ所あります。運行は昼間は15分に1本。人口約7,000人の小さなニュータウンなので、過剰な投資をせず、かつ高低差のある地形条件を克服するために特殊な交通形態が導入されたと言えます。

しかし「マイクロバスでいいじゃないか…」としなかったのは「開発者の意欲」だったというほかありません(町の開発は積水ハウス)。1990年代は住宅開発が山あいまで押し寄せ、かつまだバブルの名残りで「新しい、立派なものを造ろう」という意欲もあったのか、西宮名塩コモアしおつで導入された「斜行エレベーター」のように独自の交通機関が導入されたニュータウンがあります。神戸のポートライナー、大阪南港のニュートラム、千葉佐倉のユーカリが丘などにあるAGTと同じ「新交通システム」の発展形とも位置付けられるようです。

しかし「独自のフォーマット」というのは維持管理の努力も「独自」になるということです。27年頑張った末、電気バスに置き換えられることになりました。運賃は少し高くなるようですが、停留所が増えることで便利にはなるようです。

広島の人に聞くと、「スカイレールタウンみどり坂」の評価はけっこう高いようです。山あいではありますが、町全体がしっかり造られています。「スカイレール」という独自の交通機関は、町のシンボルとして、評判を高める役割は果たしてきたのでしょう。

下から見ていると「カタタン、カタタン…」という独自の軽い走行音をたてながら、けっこう速いスピードでぐいぐい走っていきます。おとぎの国か村上春樹の世界に迷い込んだような気分になります。分類上は「鉄道の一種」とされる「スカイレール」、これがなくなるということは、「町の音」が変わるということです。

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