千里モニュメント作品目録」(1970)、『集(つどい)』をめくって立体彫刻の最後の作品は…千里北公園、つまり藤白台の『風の道』です。高さ約20メートル。このシリーズの中では一番のっぽです。現存しています。風に踊りながら、きょうも丘の上で風車をくるくる回しているでしょう。

寄贈ではなく「設置 千里開発センター」となっていますが、(推察ですが)この作品だけスポンサーがつかなかったのではなく、大阪府がいろいろな企業にお願いする際に、「うちも出しますから…」と交渉したのではないでしょうか?千里開発センターは大阪府の外郭団体で、千里センターと名を変えて2005年までありました。

素材は、フレームはスチールパイプ、てっぺんの羽根は強化プラスチックだそうです。初期はこの写真のとおりオレンジ色でしたが、今は黄色になっていますから、取り替えたのかもしれません。

作者の新宮さんは、お元気です!1937年生まれなのでこのシリーズの作者の中でも一番若く、1970年には33歳だったことになります。その作品は吹田のメイシアターや、関西空港豊中市立千里体育館前など、多くの場所で親しまれています。作者の言葉を引用してみましょう。

北千里公園のゆるやかな起伏を持った丘は、想像していた以上にこの町の人々に親しまれている。女子学生が、丘を横切って学校に急ぐ、ボーイスカウトの健康な掛け声、子供用三段変速の自転車。天気の良い日曜日ともなればボールや子供達のや乳母車の家庭的な匂いでいっぱいになる。この丘にそなわった風景を私はこわしたくなかったし、とても気に入った場所だった。この芝生の丘に人々が接するときの背景にふさわしいもので、そしてちょっとしたアクセントになるものができないだろうかと考えはじめていた。そのためには、時間の経過や季節の変化を通じて私たちと同じように、生き生きとした存在でなければならない。そして私たちの生活にリズムを与えてくれる「自然の使者」のような物が出来れば理想だと思った。その時すでに私は個性を主張する芸術家ではなく、出来るだけ素直に丘の風景つまり人と自然のつながりをつかもうとする探求者になっていた。昨年の夏から秋、冬と周辺をめぐり遠くから丘を眺めて、あの風に動く塔の構想がまとまった。あらゆる風の性格に応じて運動し変化する塔である。これからの初夏の緑や8月の暑さや秋の雲が、そして健康な生活が似合うことを願っている。

「千里モニュメント作品目録」(1970)

…綿密に現地を観察して、人々の生活になじむように考えられたことがわかる文章ですね。

ところで設置当時の写真を見て思うことは(他の作品もそうですが)、周りの木が小さい!今では森に埋もれるような感じになってしまって、かろうじててっぺんの羽根が見えているような感じです。作品の真下に独り生えしたであろう木まで伸びてきてしまっています。

この時設置されたモニュメントのうち、可動部があるのは、千中の『ステンレスの林』と、この『風の道』だけで、『ステンレスの林』なきあと『風の道』が唯一の作品になっています。今のうちに、少しでも延命できるようにメンテナンスを考えられないでしょうか?…この『風の道』は、すっかり町のランドマークになっているからです。風が形に見えることも、ニュータウンの一部なのです。(つづく

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