一度壊すと二度と造れない建物は文化財ではないのか(千里阪急ホテル)

11月26日、豊中市千里文化センター(コラボ)主催による千里阪急ホテルの見学ツアーに参加しました。同ホテルは、2026年3月末での営業終了が発表されています。

見学当日は、ホテルのスタッフによる解説がありました。このホテルを設計した浦辺鎮太郎さんの設計事務所から直接教えを受け、さらに毎日使い込んできたスタッフの方ならではの思いがこもった丁寧な解説でした。

千里阪急ホテルの開業は、1970年3月1日。千里ニュータウンや広域千里の宿泊需要にこたえ、万博関連のゲストハウスとして、また千里インターチェンジに面している立地からドライブイン的な使い方も当初は想定されていたようです。2度にわたって大きな増築がされ、いずれも浦辺設計が担当しています。

建物のデザインコンセプトは「モダンとクラフト性(手仕事)の調和」であったそうです。説明されると、至る所に手づくりの要素が刻み込まれていることにあらためて気がつきます。明り取りの窓にも、照明にも、手すりのカーブにも、ここにしかない工夫が詰まっています。全体としてはニュータウンや万博のゲートウェイにふさわしいモダンさ、軽快さを奏でながら、細かく見ればこの場を無機質な人工都市には終わらせないという気概が伝わってきます。それは当時の千里ニュータウンを手がけた設計者たちに共通の精神であったかもしれません。

そして手仕事であるということは、「一度壊すと二度と造れない」ということです。このホテルが閉館しても、千里地域で宿泊需要がないということはあり得ませんから、なんらかのホテルは必要とされるでしょう。しかしそれがノックダウンで量産できるようなものになってしまったら、千里はひとつの「文化」を失うことになります。

閉館後のことは、現時点では何もわからないということでした。客室の狭さやバリアフリーの課題など、コロナ禍にかかわらず「最新の設計ではない」課題はもちろんあります。半世紀を超えて、老朽化もしているでしょう。加えてコロナ禍により経済状況の不安定さはいつクリアになるかは誰にもわからず、経営的観点から見ても「こうします!」と言えないことは真摯な説明だと思いました。

しかし「まだわからない」ということは、「壊します」とも言っていないわけです。この思いを受け継いで、機能面・経営面でも活路が見いだされることを、願っています。

千里ニュータウンは来年、まちびらきから60年を迎えます。還暦になる町には、こういったものを生かしていける度量もあってほしいものだと思います。

この企画を実行してくださった 豊中市千里文化センター(コラボ) 、千里阪急ホテルの皆様には感謝を申しあげます。 2026年3月末までまだ時間はあります。お茶を飲みに行きましょう!宴会や会合しましょう!遠くから来られたお客さんにはここに泊まっていただきましょう!思いが集まれば、何か前向きな知恵が出てくるかもしれませんね。

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