ニュータウン・ブックチャレンジ(3/7)…しろいろの街の、その骨の体温の

「ニュータウン・ブックチャレンジ」3日目は『しろいろの街の、その骨の体温の』(2012年 朝日新聞出版、村田沙耶香著)。できかけのニュータウンを舞台にした小説です。帯のフレーズは「学校も、この街も、大嫌い」ですよ!しびれますね。もっと言って。

ニュータウンといってもモデルは千里や多摩といった「老舗」ではなく、千葉ニュータウン(作者は印西市の出身)。そしてまさに半分できていて半分できていない、中途半端な成長過程の町である不安定さが、主人公の成長期の残酷な心境とシンクロしています。つまりこの物語は「オールド・タウン」になってしまったニュータウンでもなく、高度経済成長期のニュータウンでもなく、「作りかけ」の状態がずっと続いている千葉ニュータウンが舞台であることが生きています。

それでいて、転校生が次々とやってきて旧校舎と新校舎がある学校や、鉄道の路線が伸びていって終点だった駅が終点でなくなるとか、駅前のコミュニティーセンターに町の完成予想模型が置いてあるとか、工事現場の先にススキの原っぱが広がるディテール描写には、たしかに千里もそうだったと萌えてしまいます。駅前に大きなダイエーができるという記述があるので、90年代後半から2000年前後の設定かな。町の模型ケースを覗き込んで、主人公は(こんな街、大嫌い)とつぶやくのです。もっと言って。

僕はもっとはるか昔の、西部劇の舞台のようだった高度経済成長期に千里に来たので、「開発の興奮」を浴びながら育ったわけですが、わからなかったのです。そういう興奮が消えたあとにニュータウンに来た(あるいはそこで生まれた)子供にとって、この町は面白いのかどうか?それは、郷愁の対象にさえ、なかなかたどりつけません。

ませた主人公の女の子は(こんな街、大嫌い)とつぶやく方法を知っていたわけですが、同級生の男の子は「僕はニュータウンで、街と一緒に育った。…いい仲間と、こういうところで成長できて、すごくラッキーだと思います。おわり!」と作文に書いてしまいます。パパも新しい駅ができたりすると、興奮気味です。男は、単純だな。

作者の村田さんはこの作品の後に『コンビニ人間』で芥川賞を受賞し、そちらのほうがエンターテーメントとしては完成度高いですが、ニュータウン色が強いこちらのほうを選びました。『コンビニ人間』も、すべてがフラット化したようなニュータウン的な世界観が背景になっていますね。それが新しい都市としての「ニュータウン」でもなく、「オールド・タウン」でもない、普通の町として受容されるニュータウン観なのかもしれません。

僕はこういうところで成長できて、すごくラッキーだと思います。おわり!

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